第一章「鈴の音」1


初夏。

京。

陽光を反射してきらめくような長い金の髪と、空を映しこんだような澄んだ青い瞳の少女が、市の中を軽快に闊歩していた。











「ちょーっと、暑くなってきたかなぁ…」
市での買い物を済ませたあたしは、荷物片手にもう片方の手をかざして、空を見上げた。
真っ青な空に白い雲がぽつん、ぽつんと浮かんで、笑いたくなるくらいいい天気。
こんな天気だから市もいつも以上の活気で、なんだか予定してたよりいっぱい買って…、いや、買わされちゃったような。

「ま、いっか」

呟いてあたしは歩き出した。
平和な証だもんね。あれだけ廃れてた京が、ここまで活気づいたんだもん。

 

長期の争乱に揺れたこの世界は、源氏方の勝利という 形で一応の落ち着きを見せた。
その現場で戦っていたあたしたちとしては、平家を倒す一方で将臣くんを助けなくちゃいけなかったり、応龍を復活させなきゃいけなかったり、荼吉尼天を倒さなきゃいけなかったり、いろいろ大変だったんだけど。まあ平和が取り戻せたんだから、よしとしよう。
八葉のみんなもそれぞれの穏やかな生活を手に入れた。
そしてあたしは、何やかやとあってこの世界に残り、…あの人と…、ええと、つまり。

────恋人、ってことに、なってる。

長い戦いの中で、自分の気持ちに気付いたんだ。
守りたい、一緒に生きたいって思ったから。
この平和な世界であの人と想いを通じ合えたのは、 本当に。

幸せ。

…おっと、すぐ頬が緩んでくるなぁ危ない危ない…。



なんて顔を押さえながらのんびりと道を歩いていたあたしだから、当然知るよしもなかった。
あたしに、新たな『運命』が降りかかろうとしていたこと。



──────……

「え?」

誰かに呼ばれた気がして、振り向く。
でもそこには…市から流れて来た雑踏があるだけ。
誰もあたしに声をかけた感じじゃ…ないよね…。

「気のせいか。」

と、また歩き出そうとしたとき。

──────リン……

「!」

また、振り向く。
……何……?
今のは。


鈴の、音?


どくん、どくん…
心音が速くなっていく。
だって…鈴の音って。
だって…この感じは。
まさか……。

──────リン……!

「や…っ!!」

さっきより近くで聞こえた鈴の音に、思わず耳を押さ えた。
嘘。
嘘。
だってもう、戦は終わったのに。
もう応龍は復活したのに!

──────リン……!

「白……龍……?」

あたしは、呟いてしまった。
その鈴の音に。

・・・・・・・ 応えてしまった。


『────神子────』

「っ!」

ざぁっ…!
視界が不思議な靄に包まれる。
この感じ…やっぱり!
初めて白龍と会った時と同じ…!

『力を……私に……力ある神子……!』

泣き叫ぶような声が頭の中に響き渡って。
その衝撃に、

…あたしは意識を手放した。


どさっ

無情な音を立てて地面に落ちた、荷物。






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